彼女の夢は父親を見返すことであった。
幼い彼女を知り合いの老人の店に預けておいて、父は世界を飛び回っていた。
東で珍しい掘り出し物がオークションに出展されたと聞けば寝食を惜しんで旅を
し、西で新たな遺跡が発見されたと聞けば即座に取って返す。そんな生活だった。
古物商としての生き方しか知らない彼にしてみれば、連れ合いが病死した後に幼
い娘を養っていくためには、この方法しか見付からなかったのである。
だが、放り出されたと考えていた娘にそれが伝わるはずもなく、
ヴァレリアは父を恨みながら育った。
彼女を預かったケフェウスという名の老人は、東と西の文化が行き交う
街道沿いの街に店を構えていた。ヴァレリアもやがて、その店で働くようになる。
父親の仕事を少しでも理解できるようにとの老人の心遣いだった。
長ずるにつれ、彼女は古物に興味を持ち、やがてその鑑定を得意とするようになる。
これが父親を彼の得意とする分野で打ち負かしてやろうという心理の現われであることに、気付いていたのはケフェウス老人だけだったかもしれない。
老人はヴァレリアの父親にたまには街に留まって、娘と一緒の時間を増やすべきだと諭す。
それを聞いた男は、自分はこの生き方しか知らぬ。娘が生きていく術を得たのは素晴らしいことだ。そしてそれが自分と同じ道であるならば、そのうち一緒に旅をすることもできるだろうと答えた。
だが、その日は来なかった。ヴァレリアが一人前になる前に、彼は行方知れずとなったのだ。
ソウルエッジと呼ばれる剣が出品されるというオークションへ出かけたきり、男は姿を消してしまった。ケフェウスは彼の身に何かが起きたのだと思った。
あの男が娘を放って消えるわけがない。その思いは数年後、確信へと変わった。
ヨーロッパを揺るがしたナイトメア事件の渦中に、ソウルエッジという存在が関わっているという噂を耳にするようになったのだ。
ヴァレリアはまだ父親が姿を消した時に、彼がどこへ行っていたのかを知らなかった。老人は彼女に彼が知る全てを伝えた。ヴァレリアはすでに、一方的に父を恨む少女ではなかった。彼女は父親の真意を知り、その思い描いていたであろう二人の旅に想いを馳せ、彼と彼を誤解していた自分に涙した。
古物を見る目にかけては世界一の目利きになる。その目的こそ変わったが、彼女の夢は変わらない。 |