その日、ストライフは初めて皇帝の玉座に着いた。
わずか10歳。彼の顔に笑みは見られなかった。
それから何日も、食事を取れぬ日が続いた。
それから何日も、熟睡できぬ日が続いた。
それから何日も、懐に短剣を忍ばせる日が続いた。
彼の命を奪い、皇帝の座を取ろうとする血族。
全ての人間が信用できなかった。裏切りなど日常茶飯事だった。
人間の汚ならしい貪欲さと、自らの惨たらしい死に怯える日々は、次第に彼の精神を蝕んでいった。
或る日、彼の耳に、城の地下深くから響く声のようなものが聞こえた。
玉座に座る度に、その声は聞こえた。
彼は無意識のうちにその声のようなものを理解し、自らの言葉として発するようになった。
その日から、彼は変わった。彼の言に異を唱えるものは全て処刑した。
裏切りの疑いがある者は徹底的な拷問にかけた。
また、古より帝国の権力の象徴とされた巨大な剣、「アンビション」を軽々と振るうようになった。
他国への不干渉を装いながら、軍備の拡張も進めた。
……今日、軍の視察の際に訪れた士官学校の中に、目に止まった候補生がいた。
彼はその者の振る舞いに得体の知れぬ不快感を覚えたが、特に気には留めなかった。
その時、彼はまだ、自分が本来求めているものを、その者が持っていることに気付くことはできなかった。
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