どこかは分からないが、日中でもわずかしか光の届かぬ暗い場所。
そこが彼女のお気に入りの場所である。暗闇の中、
床の上で
微かに輝くのは金貨だろうか。だが、心せよ!
その甘い輝きの中には、彼女の愛刀「赤烏」の血塗られた煌きも混じっているのだから。
彼女は世界を股にかける盗賊集団の一人だが、それを知る者は少ない。
この謎に包まれた集団について世間が知ることは皆無である。したがって彼女の
生い立ち、剣術の師、盗賊となった経緯…。全ては人々の口から語られることな
く、組織同様深い霧に包まれている。もちろん「守銭奴」を意味するマイザーと
いう名が本名であるはずもなく、彼女の本当の名が歴史に名を残すこともないだろう。
彼女は静かに街道の夜を進み、人々の生活の隙間を人知れずすり抜けていく。
そして行く先々で金と命を掠めて去っていくのだ。後に残るのは、その刃の煌き
だけである。
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