あの日の怒鳴り声が聞こえる。
「死にたくないなら剣を取れ! 役立たずが!」
身の苦痛に涙を流すその少女は、逃げる場所も、
安らげる時間も持ち合わせていなかった。
「ごめんなさい……ごめんなさい。お願いします、もう一度やらせて下さい。次は、上手くやります……」
優しさや温もりという存在は、聞いたことはあったが見たことはなかった。
今日、彼女が天才と呼ばれるに至ったのは、生まれ持った天賦の才もさることながら、血の滲む手で剣を振り続けた過去によるものに他ならない。
「自己防衛本能」「生命の維持」……ただそれだけ。
自分を守ってくれるものは誰もいない。愛を注いでくれる親もいない。絆を結べる友もいない。
そこにあったのは、たった一本の剣。
誰よりも強くなくては生きていけない。自分より強い者は存在してはいけない。
今日、彼女は戦場を駆けている。閃光の如く、敵国の軍勢を斬り捨てていく。
命を乞う者にも、逃げ出す者にも、負けを認める者にも、家族がいるのだと慈悲を求める者にも、一切の情は湧かない。
なぜなら彼女は、それらを知らないからだ。知ることを許されなかったからだ。
全ては、自分が此処に在るために……他に理由などいらない。
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