彼女の夢は世界一の砥ぎ師になることだ。
名高い武術の達人が住むという山を街道と出会うところまで下ると、
ちょっとした集落がある。ここには、キャラバンの長が腰を落ち着けて開いたと
いう武器屋が店を構えていた。ファリンは幼いころに奉公人としてこの店に入り、
武器と関わる生活を始めた。雑用から武器の手入れの仕事を経て、
やがて彼女は一生をかけて極めたいと思える仕事と出会う。
それ以降はひたすら砥ぎ師としての修練を積んでいた。
店は一応世界中の武器を扱っていたが、どうしても土地柄からアジアの武器が多くなる。
西洋の武器や、中東の湾曲刀などに時たま触れる機会もあった。
まだまだ知らない武器もあるだろう。ファリンは世界中の武器を見てみたいと思うようになっていた。
彼女がケフェウス老人と初めて出会ったのは、年の終わりも近いある日のことだった。
ケフェウス老人は明の都で大掛かりな仕入れをした帰りに古い友を訪ねてきたのだ。
彼はファリンの技術に驚き、賞賛し、そして惜しんだ。ファリンは明の武器を扱うことにかけては天下一品だったが、その他の武器には疎かったのだ。
それを見抜き、またその才能を知った老人は、武器屋の主人にファリンを預からせてもらえないかと申し出る。東西の文化が出会う都市にあるケフェウスの店ならば、彼女にもっと経験を積ませることができる。ファリンの才覚ならば、ありとあらゆる武器を扱うことができるに違いない。
武器屋の主も彼女の才能には気付いていた。だが、今店としてファリンを失う損失は大きい。
主人は大いに悩み、そして決心した。こうしてファリンはケフェウスの店へ修行に出ることになったのである。
ケフェウスの店の武器工房で、彼女は今日もありとあらゆる武器を研ぐ。
その仕上がりを見て、彼女の腕が世界一の極みまで研ぎ澄まされるのもそう遠い日ではないと、ケフェウス老人は嬉しくも、ほんの少し寂しげな表情を浮かべるのである。 |