静かに流れる時間の中、彼は自身の持つその槍に、「アブソリューション」という名を付けた。
これまで勝つために手段を選ばず、軍人としてただ目の前の勝利を掲げることが、彼の心を満たし、またそれが、国に命を賭して死した者への手向けだとも思っていた。
奇襲、闇討ち、非情なまでの合理的な戦術……乱れた世の中で、勝利以外に正義と呼べるものはなかった。
グランダールのジラルド。かつて大陸に伝わった邪剣に魂を売ったと非難されたことさえあった。
だが、いくら非難を浴びようと、正論を並べようと、惨劇の繰り返される現実を生き抜くための手段に勝るものはなかった。
そんな彼が自身の行為に葛藤を覚え始めたのは、軍士官学校の後進育成官を担うようになってからだった。
若き教え子が次々と戦場へと駆り出され、その命を散らしていく。
彼の下への帰還を誓い、無事それが叶った者は、唯の一人もいなかった。
ある時、彼を父と慕い、彼もまた我が娘のように可愛がっていた女性士官が、知らぬ間に戦死を遂げたことを知ったとき、彼は自分の犯してきた罪に気付いた。
自分は死を育んでいる。命を凶器へと変え、戦争の道具として死ぬ術を教えている。
自分が今座っているこの育成官の椅子は、若き者の屍で造られている。
この現実から目を逸らすわけにはいかない。逃げ出すわけにはいかない。
せめて国を守るため、民を守るため、私は盾となり、槍となろう。
これは自身に課せられた贖罪の道。
理想と現実の狭間で、彼はこれまでとは違う戦いを始めようとしていた。
彼は自身の持つその槍の名に、同じ過ちを二度と繰り返すまいと「いつまでも変わらぬ心」の意を込めた。 |