夜、月の明かりに照らされて、神秘的な輝きを見せる水。木々と風が奏でる静かな旋律。
豊穣で取れた良質の美酒を舌で転がしながら、その国の王は自身のいる場所に酔っていた。
酒は王の空腹を紛らわしてくれた。
元ハルティース第三王子デムース。
彼のところに一人の男が近付いてきたのは、彼がまだハルティースの王城で過ごしていたころだった。
その男は言葉巧みに、デムースの置かれている状況と未来を語り出し、また、それを変えるための方法を説いた。
ハルティース王国の中の第三王子という立場が次期国王になれる可能性は、何か「事故」でも起こらない限り、ほぼゼロに等しい。
現状地方領主として小さな土地を治めているにすぎないデムースが、二人いる兄を差し置いて国王になるための道は敷かれていなかった。
王になるため、兄を暗殺する手順を考えていたデムースに、男は頭がおかしいとしか思えぬほど短絡的な言葉を投げかけた。
「王になりたいのであれば、王になればいいのですよ……」
一国の王になるための方法は非常にシンプルであった。
今自分の納めている土地を、国のものではなく、自分の物にしてしまえばいい。
その後、全てのことが男の言う通りになっていった。
そして城も街も、人間も設備も、驚くほどの早さで整っていった。
大陸最大規模と称されたハルティースの大軍勢が、嘘のように敗北を喫していった。
「新興国家マレッタ」の名をハルティース王国に認めさせるまでに、そう時間はかからなかった……。
酒を飲み干した王は、自分が空腹であることを思い出した。
非常に大きな肉が食べたくなった。
明日、この国の領土はさらに広がることだろう。
ハルティースという名の大きな肉は、きっとこの空腹を満たしてくれるに違いない。 |