容姿端麗、頭脳明晰……グランダール帝国軍士官学校一と謳われる秀才。
幼きころから軍人である父の英才教育の下、期待以上の才覚を現してきた彼女の力を、
誰一人として疑うものはいなかった。
彼女が物心ついた時から、周囲からそう位置付けられ、常に羨望と尊敬の眼差しを浴び、
「エリート」と呼ばれた。いつしかそれは当然のこととなり、決して不快ではないこと……
否、むしろ心地良くすら感じられるようになっていた。
自らは気位を高く保ち、弱きに手を差し伸べ、強きを挫く。
それは彼女が彼女たる意義、引いてはそれが自分の存在理由として疑わぬようになっていた。
そう、あいつが来るまでは。
士官学校に同期で入学したが、さして才能も教養も持ち合わせていない。取るに足りぬ存在。
しかし、どこか人を惹き付ける力を宿す存在。世に在る力で得られるものとは違う何か……
彼女は、自分の心の中の何かを奪おうとする影を感じていた。
同時に、秀才と呼ばれる自分を支えてきたもの――「正義」――が、優越感と快意から形成されていると認識した。
誰かの声が聞こえる。
「ワレノソンザイヲオビヤカスモノ……」
彼女は彼女の絶対なる正義を守るため、剣と盾を手に取った。
欲動と葛藤が蠢く戦場に、自ら赴くことを決意した。
国を守らんとする正義は、同時に、自らを護る正義だ……。 |